残業月20時間以内とかいう無慙なアピール

残業月20時間以内とかいう
無慙なアピール

世の中のプロモーションなるものは、真に受けてまじまじ見るものではないと常々思っていますが、たまによく見てみることで、笑いが得られることもあるものです。
「保存料・発色剤は使用しておりません」といかにも健康志向であるかのように謳いつつ、原材料を見れば保存料・発色剤以外のあまり口にしたくないようなものがどっさり入っていたりする。 そういうなんとも間の抜けたプロモーションは世間にあふれており、しかし意外にも、そういう粗末な惹句に釣られてしまう人が後を絶たないのも事実です。

就転職業界においても、間の抜けた、粗末な惹句は飛び交っていますが、やはり有効に機能しているようで、そういったものが氾濫する業界ほど、深いところで荒廃が進んでいるような気がします。 つまり、冷静にそのプロモーションの意味を考えてみれば、その歪さが、負価値がわかるようなものが、冷静さを欠いているがために、あたかも正価値と見えてしまう、そのような狂躁の舞台となっているともいえるのではないでしょうか。

たとえばそのひとつが「残業月**時間以内」とかいうアピールです。 私もブラック企業に勤めていた頃は、「残業」に命を奪われそうになりましたから、この漢字二文字は「残骸」とか「残飯」とかと同じようなネガティブな印象を受けるのですが、それが「ない」という健全さはもう諦めて、消極的に「残業月**時間以内」などと言っているわけです。 しかもそれが「交通費全額支給」とか「社会保険完備」と同列に、福利厚生のひとつであるかのような金科玉条のごとき扱いになっているものだから、もう気持ち悪さしか感じません。 同じようなもので「ノー残業デー」というものもありますが、これもまるでその日が祝日扱いのような気持ち悪さです。

「物は言いよう」といいますが、ここまでくると、もう「無慙(罪を犯しながら心に恥じないこと)」としか言いようがない、まさに狂躁というものでしょう。 「命までは取らない。金を取るだけだ」という強盗の文句と本質的には変わらないことにたいして「なんて優しい人なのかしら」とほっと胸をなでおろしているさまを正常だとは思いません。ワークライフバランスという、ともすると悪用も誤魔化しも可能なワードに振り回され、酷さのなかからもっともましな酷さを選択するしかないという手法がまかり通っている就転職業界、そして日本の仕事の未来が明るいはずがない、と考えるのは私だけでしょうか。

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残業月20時間以内について考えてみる

社員全員、満面の笑顔の写真に「残業月20時間以内」というコピーが添えられているのは、今の日本のズレた感覚をとてもわかりやすく示してくれているありがたい資料ですが、この「残業月20時間以内」について少し考えてみましょう。

完全週休2日制、月あたりの稼働日数を22日と仮定すると、20時間というのは一日あたり約54分の残業というわけです。 つまり基本の8時間労働にもれなく約1時間の残業が付いてくるということで、9時間労働がその会社での平均労働時間ということです。 その定時を約1時間長引かせるやり方に大きな意味はあるのでしょうか。

1時間あたりの粗利を精確に計算している企業は少ないと思われますが、一日あたり約54分といえば、8時間労働における1時間あたり、たった約7分の効率化で溶かせる時間です。 無論「月20時間以内」と謳っているわけですから、その20時間は均等割とはかぎらず、特定の繁忙日に集中するのかもしれませんが、私の職種と経験にかぎっていえば、常態的に定時が遅延して実質定時が遅くなっていましたし、その余剰時間に皆、大した意味を感じていなかったからこそ、いわゆる「空気」という無意味な縛りでその不文律が維持されていたのです。 まったくバカバカしいことだといわざるをえません。

私は海外の人と仕事をした経験は、アメリカ、中国、トルコの3カ国だけですが、それでも、彼らの仕事ぶりにそのような無駄は見受けられませんでした。 そこに違和感を感じなくなっている、日本人の「宿痾」と化しているということでしょう。

「月20時間以内」ではなく「月100時間以内」ともなれば、効率化で溶かせるレベルではない、やんごとなき別の理由や問題が存在するのかもしれませんが、月あたり20時間や30時間といった時間はどうにかなるだろうと言いたくなるもどかしさを感じるのです。 私は個人として仕事をしてみてわかったことは、月あたり20時間や30時間程度であれば、まず効率化で溶かせる時間だということです。

毎日の大義なき約1時間はあきらかな、甚大な損失です。 その約1時間を、約1時間多く眠る、約1時間趣味を楽しむ、約1時間子育てにあてる、約1時間職場以外の人間とのコミュニケーションにあてる、約1時間読書や勉強にあてる、といったことと比べて想像してみてください。 笑って集合写真撮っている場合じゃないんです。 時間はこの世でもっとも貴重な資源の1つなのです。 20時間といえば、約1日分です。些細な時間、ではないのです。 「残業月20時間以内」なんて滑稽なアピールをしていないで、「月-(マイナス)20時間」、定時より早く帰れることを売りにしたような企業に、これからは優秀な人材が集まってくる時代の流れだと私は思います。

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